産業用ガス検知警報機器の専門メーカー、理研計器株式会社では、2013年に社内に散在していたファイルサーバーを集約する目的で統合ストレージを導入した。そこから既存の情報システム改革が一気に加速。グループ会社を含む全社のIT統制を実現するとともに、ITの視点からビジネス戦略を支援するという情報システム部門本来の業務体制の構築へ向けて邁進中である。
理研計器株式会社
1939年設立。歴史と伝統に支えられた確かな技術により、"人々が安心して働ける環境づくり"を経営理念に掲げた信頼性の高い製品づくりを追求。現在、100種類にのぼるガス検知・環境測定製品を扱っている。
・所在地
東京都板橋区小豆沢2-7-6
・Web
http://www.rikenkeiki.co.jp/外部サイトへ
理研計器株式会社は、現在の理化学研究所(理研)の発明を製品化する目的で創設された理研コンツェルンの一社として、1939年に設立された産業用ガス検知警報機器の専門メーカー。現在は、半導体・液晶工場、石油コンビナート、製鉄所、タンカー、石油備蓄基地、鉱山、火山など、有毒ガスを使用・発生する現場、酸欠の恐れのある現場における作業者の安全や設備の保全を監視する産業用ガス検知警報機器及び各種ガスセンサを独自に開発生産する企業だ。
同社の情報システムは、長年にわたってメインフレームによる基幹システムを中心に運用してきた。そのため、情報システム部門は経理部電算室(その後、経理部情報システム課)という名称で経理部の配下にある組織であり、社内で基幹システムのプログラムを開発して運用するという業務をもっぱら担当してきた。
しかし、「このままでは、情報システム部門が社内失業の危機に向かってしまう」という危機感を抱いたと、理研計器株式会社 取締役執行役員 管理本部本部長 松本哲哉氏は話す。
「昭和40年代後半、コストセンターとして事務効率化を求められていた時代にメインフレームを導入し、業務がわかっている担当者が自らコンピューターの勉強をして当時主流だったCOBOLでプログラムを組んでいました。昭和60年代には、オペレーション中心で、"メインフレームのお守り"が中心となりました。平成になってオープン化の時代を迎えると、メインフレームは次第に汎用サーバーにとって代わられパッケージソフトを利用するようになり、プログラムを自ら組む必要も減少してきました。それに加え、一人1台PCを使用する環境となった事で、情報システム部門の業務はPCの設置やヘルプデスクなどのユーザー対応の比重が高くなっていきました。
プログラムを組むことがないということは、失業状態に陥ると言い換えることもできます。すなわち、本来の情報システム部門の仕事ではないところで忙しいということです。情報システム部門が、企画をはじめとした経営を支える立場に大きく関与するためにどうしたらよいのか――。社内では、ミドルマネジメントに30代を登用し、若返りにもチャレンジしている最中であり、また上場企業としての内部統制や情報セキュリティに対する取り組みも行っていました。そこで、"守りから攻め"に向けた『情報システム業務ポートフォリオ改革』に着手したのです」(松本氏)
理研計器の情報システム部門を統括する管理本部 情報システム課 課長 轡田隆男氏は、当時を振り返りながらこう語る。
「時代が変わって汎用サーバーを導入してパッケージを利用するオープン系の時代を迎えると、情報システム部門ではなく各部署が必要なシステムを自分たちで導入、展開するようになりました。当然のことながら、それでは全社のIT統制は不可能であり、実際に機能が重複するシステムの散在を招いていました。そこで業務改革の一環として情報システム部門を管理本部情報システム課へと改組し、IT統制を効かせつつ本来の情報システム部門のあるべき姿を議論するところから始めました。そうした中、散在するシステムを一元的に集約するシステム統合基盤を構築することになりました」(轡田氏)
その手始めとして着手したのが、各部署に散在していたファイルサーバーの集約だった。社内の各部署では、WindowsベースのPCサーバーやNASなどをファイルサーバーとして独自に運用しており、その数は全社で40~50台にも上っていた。
「もともと各部署がファイルサーバーを導入した時点では、それぞれの部署にファイルサーバーを管理できる人材がいました。しかし、そうした人材がだんだん少なくなってきたことにより、システムインフラをみるのは情報システム部門だという風潮が生まれてきました。もちろん、私たちもそういう認識でいましたし、IT統制を効かせてライセンスの重複を含む無駄を排除するとともに情報セキュリティ、BCP対策の観点からも、早期にファイルサーバーを集約することが望ましいと判断し、着手することにしたのです」(轡田氏)
ファイルサーバーを集約するにあたり、情報システム課では統合先となるストレージを導入する方向で検討を開始した。
「ファイルサーバーを統合するストレージには、全社のファイルサーバーを統合しても余りあるだけの容量が確保されていること、安定性・信頼性を重視してUNIX/Linux系のシステムであること、バックアップが遠隔地のストレージ間で行えることといった要件を挙げ、ストレージ製品の選定を行いました。もちろん、スペックや価格についても重視しました」(管理本部 情報システム課 係長 木村公胤氏)
十分に比較検討をした結果、一時は国内メーカーのストレージ製品の導入が決まりかけたという。そんなときに、当時、管理本部副本部長だった松本氏を介して初めて接点を持ったのが、東京日産コンピュータシステム(TCS)だった。2012年9月のことだ。
「すでに選定を終え、見積を出してもらって予算取りも終えようとしていた段階でした。副本部長から連絡があり、初めてTCSの担当者と会い提案を受けました。当社はこれまで、メインフレームもオープン系システムも国内メーカー製品を導入し、数社のベンダーと付き合っていました。そのときも、従来から取引関係にあったベンダーからの提案を受けていた中で、TCSとIBM製品を採用したことは大きな決断だったと思っています」(轡田氏)
TCSと面会した轡田氏は、最初にSEと会わせてほしいとリクエストした。
「私たちと一緒にシステム構築に取り組むのは、SEです。SEの能力や力量によって導入の成否が決まると言っても過言ではありません。そこでSEに会わせてもらいましたが、この方だったら大丈夫、安心して任せられると評価しました。もちろん、TCSから受けた提案が、当社が決めた要件やスペック、価格などの条件を満たす魅力的な製品だったこともありますが、最終的にSEの経験、スキルと人柄が決め手となり、決まりかけていた国内メーカー製品の導入を白紙に戻してTCSから導入することにしました」(轡田氏)
「理研計器様にとっては新規ベンダーです。エンタープライズストレージの設計構築、運用のノウハウをベースに、上手くいかなかった経験などもご説明させていただきました。理研計器様のご不安と思われる事象については、自身を含めてSEチームで連携してご提案をいたしました」(東京日産コンピュータシステム株式会社 自動車事業部 IT推進 主査 西森裕樹氏)
導入を決めた製品は、IBMのストレージ「Storwize V7000」だ。契約したのが2013年6月。そこからストレージの導入と散在していたファイルサーバーの集約を開始し、10月にプレリリースを行った。
「これまでは基本的にWindowsのファイルサーバーを使っており、大規模なLinuxベースのサーバーを導入したのが初めてだったため、動きに慣れるのにやや苦労しました。WindowsからLinuxにデータを移した際に、フォルダ権限の継承が少し違う動きをするところがあったのです。それらを含めて若干のトラブルがあったものの、TCSと確認しながら作業を進め、ほぼスケジュール通りにリリースすることができました」(管理本部 情報システム課 井ノ口 慎氏)
ファイルサーバーを集約したStorwize V7000の導入は、事業部門にも情報システム部門にも良い効果をもたらした。
「これまでは部署内にファイルサーバーがあっても、決まった運用ルールがありませんでした。そのためユーザーは自分のパソコンの中にデータを保存していることが多く、情報システム課にも『データが消えてしまった』『パソコンが壊れたのでデータを復旧してほしい』といった依頼が寄せられ、それが大きな負担となっていました。また、図面などの機密データの権限設定管理についても問題を抱えていました。Storwize V7000を導入して新しいファイルサーバーの運用を開始してからは、個人用フォルダの領域を提供し、重要なデータはそこに保存してローカルのパソコンにはデータを残さないようなルールにするとともに、フォルダのアクセス権についても統制に基づき、一貫したルールで権限設定を設けました。これにより、営業部門のユーザーからは、別の営業所に出張してもファイルサーバーにあるデータにいつでもアクセスできるのは大きなメリットだと喜ばれています」(井ノ口氏)
このファイルサーバー集約がきっかけとなり、理研計器では大規模な情報システム改革が動き出した。
「2014年末にメールシステムと基幹システムのサーバーが保守サポートの期限を迎え、新しいハードウェアにリプレースする必要がありました。当初メールシステムと基幹システムのリプレースを別々に進めていたのですが、サーバー台数の増加とともに、管理がさらに大変になるという懸念がありました。また、メールシステム、基幹システム、さらにハードウェアと、ベンダーがそれぞれ違うため、連携を取ることにも不安を感じていました。そんな悩みを社内で抱えていたところ、TCSの営業から『我々は複数ベンダーのシステムを統合基盤に実装、運用した経験が豊富で、情報システム課のメンバーとしてベンダー間調整をしていきます』と提案があり、それならば。と、TCSに統合システム基盤の導入を依頼することにしました」(木村氏)
「前年度、ファイルサーバー集約と統合ストレージの構築を担当させていただきました。今回は複数のベンダーのアプリケーションを1つの基盤に統合します。理研計器様にとって、仮想化基盤での構築は初めてであったため、ご不安だったと思います。マルチベンダー環境でつきまとう製品間にまたがる"グレー"となる問題に対して、SIerとして『私たちが結論をだしていく!』という、強い思いをもってご提案させていただきました」(西森氏)
TCSが提案した統合システム基盤は、Storwize V7000の追加導入を行い、ブレードサーバーをプラットフォームとし、既存のメールシステム、基幹システムのソフトウェアをそのまま仮想化統合するというもの。2014年に導入を開始し、理研計器が埼玉県春日部市に新たに建設した開発センターの落成に合わせ、2015年に稼働を開始した。
「当社にとって、本格的な仮想化の導入は初めての経験でしたが、従来のように物理サーバーを個別に立てた場合と、導入コスト、ランニングコストを計算、ハードウェア性能を比較した上で仮想化の導入を決定しました。特に基幹システムはソフトウェアとハードウェアを切り分ける必要が出てくるため、保守メンテナンスの面で危惧する声も上がりましたが、コストメリットを優先しての判断となりました。結果的に、年間数百万円のランニングコスト低減、パフォーマンスにおいては2時間かかっていたバッチ処理が40分に短縮、オンライン処理に関しても画面表示まで2分程度かかっていた処理がピーク時間でも20秒以内に表示されるなど、コストとともに運用面でも利用ユーザー部門からの高評価を得ることとなり、社長からも、よく決断したと高い評価を得ています」(轡田氏)
基盤が整ったことにより、利便性と統制の観点からさまざまな取り組みを開始した。
「業務のコアタイムを大切にすることが重要だと考えています。そのため、営業とSS(サービスステーション)の管理者には、モバイルPCを使って外出先から承認ができる仕組みを整えました。全営業スタッフはスマートフォンでメールが閲覧でき、現場業務の効率化を図っています。"守りから攻め"のひとつの実績だと言えます。
また、アフターマーケットの分野では、データの活用についての取り組みを開始しました。まずはデータの蓄積からはじめ、点検に関する在庫の持ち方予測など、先読みをする取り組みを行い、有効だと判断したところで展開をしていく計画です。データが統合化されたことにより、期待が大きく膨らんでいます。
メインフレームの時代は、0から100まで自分たちでやっていました。しかし、オープン化が当たり前の今は、企画と外部の経営資源をいかに使うかが重要になってきます。情報システムに求められるのは、クリエイトする企画力と、調整するコーディネーターとしての役割が重要になってくると考えています。情報システム部門が"守りから攻め"にシフトしていく中、TCSには、理研計器の"情報システムの参謀"としてのポジションを期待しています」(松本氏)
現在は、2015年1月に実施したサービス子会社3社の吸収合併を受け、旧子会社で運用していたシステムの統合を進めている。「統合」をキーワードとした理研計器の情報システム改革はまだ終わらない。
「理研計器様とのお付き合いは、2012年9月に、松本様との初回面談に始まりました。メインフレームからオープン系にシステムを移行した1年後のことです。初回のご面談でありながら1時間以上のお時間をいただき、その時のテーマが『情報システム業務ポートフォリオ』の見直しです。
全体の6割を占める「運用とユーザー対応」から「企画」へシフトする必要性について、ディスカッションしたことを鮮明に覚えています。 その翌年より、ファイルサーバー統合、基幹システムおよびメールシステム等の統合基盤をご導入いただきました。現在はサービス子会社の「業務統合」に向けてプロジェクトを進めています。 「統合」のキーワードのもと、情報システムが「企画」へとシフトする――"守りから攻め"に向けた"情報システムの参謀"として、私たちはこれからも理研計器様のベストパートナーとして、価値ある提案を進めてまいります」
東京日産コンピュータシステム株式会社
マネージドサービス事業部
ソリューション営業 上級主管
天川正次氏
【PDF】情報システム業務ポートフォリオ改革_理研計器様PDF [1,178KB]